カルビーに学ぶ全員活躍経営
市場環境が不確実性を増すなか、経営の意思決定をトップだけに集中させる従来型のトップダウン経営では、変化への対応スピードに限界が生まれます。特にグローバル化や消費者ニーズの多様化が進む現在においては、現場が自律的に判断し、動ける組織であることが競争力を左右します。
では、社員一人ひとりが主体的に考え、挑戦できる組織はどのように設計されているのでしょうか。
そのヒントを探るために、今回はカルビー株式会社の「全員活躍」型経営に注目します。
カルビーの考える「全員活躍」とは
カルビーが掲げる「全員活躍」とは、単なるスローガンではありません。企業の持続的成長を実現するための経営戦略そのものです。
同社は、持続的な成長の源泉を「人」に置いています。従業員一人ひとりが能力を十分に発揮し、その強みを掛け合わせることで、組織の活性化やイノベーションの創出につなげる。これを人的資本経営の中核と位置づけています。
その前提にあるのは、従業員を「コスト」ではなく「大切な人“財”」と捉える視点です。個々の強みを活かせる役割設計やチーム編成を進めると同時に、挑戦が評価される仕組みや、安心して意見を出せる環境づくりにも力を入れています。
「全員が活躍する」とは、全員が同じ成果を出すことではありません。それぞれの強みが組織の成果につながる構造をつくることこそが、カルビーの組織づくりの本質といえるでしょう。
「全員活躍」に向けた仕組みづくり
では、「全員活躍」を実現するために、カルビーはどのような制度改革を進めてきたのでしょうか。
象徴的なのが、人事異動の仕組みの見直しです。
かつては幹部候補人材の登用に「手挙げ制度(チャレンジ制度)」は存在したものの、実質的には本部長指名の色合いが強く、利用には公開プレゼンテーションなどの条件もありました。制度としては存在していても、心理的ハードルが高く、十分に機能しているとは言えない状態だったのです。
そこで、手挙げ制度の仕組みを改め、直接人事に申告すれば利用できるようハードルを下げることで、従業員からの「手挙げ」が活発になるようにしました。
その結果は明確でした。改革前に9人だった利用者は、2018年に本格運用を開始すると短期間で40人へと増加。制度を「作る」だけでなく、「使われる状態」に変えたことで、挑戦の文化が可視化され始めました。
この改革の背景には、経営スタイルの転換があります。長年トップダウンで機能してきた組織を、ボトムアップ型へとシフトする。その実現には、従業員一人ひとりが主体的に動くことが前提になります。
そこで掲げられたのが「キャリアオーナーシップ」という考え方です。自らの将来を自ら設計し、その選択を通じて会社を変えていくというマインドセットです。
社内異動の活性化は、単なる人事制度改革ではありません。社員が自分のキャリアに責任を持つ土壌をつくるための第一歩だったのです。
環境面から見た「全員活躍」
「全員活躍」は、制度だけで実現できるものではありません。その前提となるのが、挑戦し続けられる環境づくりです。
カルビーが重視しているのは、「ライフワークバランス」の考え方です。生活(ライフ)の充実が仕事(ワーク)の質を高め、その成果がさらに生活を豊かにする。この好循環こそが、持続的なパフォーマンスを生み出す源泉であると位置づけています。
その考えを体現するため、従業員が個々のライフイベントに左右されることなく働き続けられる環境整備を進めてきました。家庭と仕事を両立できる制度の拡充だけでなく、働き方そのものの見直しにも踏み込んでいます。
たとえば、残業時間の「見える化」によって就業時間の適正化を図り、長期有給休暇の取得を推進することで生活の質の向上を支援しています。さらに、ITインフラの刷新と活用を通じて業務効率を高め、時間当たりの生産性向上にも取り組んできました。
その象徴的な取り組みの一つが「カルビーハイブリッドワーク」です。出社とリモートを組み合わせた柔軟な働き方を推進し、場所に縛られない働き方を実現しています。これは単なる在宅勤務の導入ではなく、成果を基準に働き方を設計し直すという意思の表れでもあります。
ここで重要なのは、単なる福利厚生の充実ではないという点です。ライフとワークを対立させるのではなく、両者を統合し、相乗的に高めていく「ワークライフインテグレーション」という発想に立っていることにあります。
生活と仕事が循環的に高め合う環境を整えること。それが、カルビーの掲げる「全員活躍」を支える基盤となっています。
まとめ
カルビーの「全員活躍」型経営は、単なる人事制度の刷新ではありません。挑戦しやすい仕組みへの転換、キャリアオーナーシップというマインドの浸透、そしてワークライフインテグレーションを支える環境整備までを一体で設計している点に、その本質があります。
制度の見直しに加え、カルビーハイブリッドワークのように働き方そのものを再設計する取り組みは、「どこで働くか」よりも「どう成果を生み出すか」に重心を移す挑戦でもあります。制度と環境の両面から主体性を支える構造を整えている点に、この経営の特徴があります。
トップダウンからボトムアップへと舵を切ることは、方針を掲げるだけでは実現しません。挑戦できる構造と、挑戦してもよいと思える環境。その両方が揃ったとき、はじめて組織は動き始めます。
「全員活躍」とは、全員を同じ方向に整列させることではなく、全員が主体者として動ける状態をつくること。その視点を持てるかどうかが、これからの組織づくりを左右していくのではないでしょうか。


