貸借対照表から考える“良い借金”と“危ない借金”の違い
こんにちは、YKプランニング代表取締役社長の岡本です。
「うちは借金が多いからダメなんだよね…」
中小企業の経営者と話していると、こういった言葉を耳にすることがあります。
借入金に対して、“できるだけ少ない方がいい”、“借りている状態=経営が苦しい証拠”という印象を持っている方も少なくありません。もちろん、過剰な借入によって経営が圧迫されるケースもありますが、借入そのものが悪いというわけではありません。
むしろ、借入は企業が成長するための大切な資金調達手段であり、戦略的に活用すべきものです。
今回は、貸借対照表の中から「借りている割合」に注目する「借入金依存度」という指標を切り口に、借入の“良し悪し”ではなく、“意味”を読み解く視点を共有していきたいと思います。
借入金依存度とは?~お金の集め方を映す財務分析指標~
貸借対照表の右側は、「どこからお金を集めてきたか」を表すパートです。
自己資本(純資産)と他人資本(負債)に分かれており、その中でも借入金は企業外部からの資金調達の代表格です。
借入金依存度の計算式は、以下の通りです。
借入金依存度 = 借入金 ÷ 総資産 × 100(%)
この指標は、企業の総資産のうち、どれだけを借入に依存しているかを示すものです。たとえば総資産が1億円で借入金が6,000万円の場合、借入金依存度は60%となります。つまり、その企業は資産の60%を借入によって賄っていることになります。
この数字だけを見ると「多いな」と感じるかもしれませんが、業種やビジネスモデル、成長フェーズによって最適な借入金依存度は異なります。たとえば、借入金依存度の目安として、設備投資が多い製造業では依存度が高くなる傾向があり、一方で、サービス業やIT業界などでは比較的低い水準が目安とされています。
重要なのは、単純に「高い=危ない」「低い=安全」と捉えないことです。
この指標はあくまで“きっかけ”に過ぎず、経営の意思決定や資金使途とあわせて判断する必要があります。
借入金依存度が高いと危険?正しい見方と注意点
借入金依存度が高い企業は、本当に危ないのでしょうか?
実は、そうとは限りません。むしろ、成長のタイミングで積極的に借入を活用することは、健全な経営判断でもあります。たとえば、新店舗の開設、新たな設備投資、人材採用、システム開発など、未来に向けた投資は、すぐには利益を生み出しません。
こうした将来に向けた支出を内部留保だけで賄うのは現実的ではなく、「外部からの資金=借入金に頼る」のは自然な選択です。借入を通じて一時的に依存度が高まっても、その投資が売上や利益に結びつけば、結果として財務体質が改善されていくのです。一方で、問題になるのは「何のために借りたのか」が曖昧な場合や、赤字補填のための借入が繰り返されているようなケースです。
このような場合は、経営の抜本的な見直しが求められます。つまり、借入金依存度は“多さ”ではなく“中身”で判断するべきなのです。
借入の質を貸借対照表で見極めるポイント
では、借入の“中身”とは何でしょうか?
ここでポイントになるのが、貸借対照表を通じた“借入の質”の見極めです。
たとえば、同じ金額の借入でも、
・長期借入なのか、短期借入なのか
・借入金とともに固定資産が増えているのか(投資)
・借入金とともに現預金が増えているのか(将来への備え)
・借入が増えているのに、資産構成が変わっていない(赤字補填?)
など、貸借対照表を分析することで、「その借入が何のために使われたのか」のヒントが得られます。
特に、弊社が提供している経営支援クラウド『bixid(ビサイド)』を使えば、借入金の構成比や資産とのバランスもビジュアルで確認できるため、「あれ、この借入って何のためだったっけ?」という問いが自然と生まれてきます。
借入金依存度は、“数字の裏側”にある経営判断を問い直す視点を私たちに与えてくれるのです。
借入金依存度を経営判断に活かすために
借入金依存度は、単なる財務指標ではありません。それは、企業がどのように未来を見据え、どんな資金戦略を描いているのかを映す「経営の鏡」のような存在です。
借りていることを恥じる必要はありません。むしろ、借入をどのように活かしているのか、そこにこそ経営者のセンスと覚悟が現れます。貸借対照表を通じて、資金調達のあり方を見つめ直すことは、未来の意思決定の精度を高めることにつながります。
これからの経営には、「借りない」ことよりも、「上手に借りて、成果を出す」ことのほうが求められる時代です。
借入金依存度をきっかけに、経営の意志と数字をつなぐ対話を、始めてみませんか?

1998年3月山口大学経済学部卒業。学校法人大原簿記法律専門学校入社。簿記・税理士講座の講師を務めた後、2003年行本会計事務所に入所。2017年株式会社YKプランニング代表取締役社長就任。ミッションである「独りぼっち経営者を0に」実現のために日々奮闘中。
趣味は長距離運転、スキンダイビング(素潜り)、GoogleMAPを見ること。