財務分析‐収益性編‐会社の表情を見る
こんにちは。YKプランニング代表取締役社長の岡本です。
今回から「会社の健康診断」をテーマに、決算書・試算表の数値を人間の体「顔」「上半身」「心臓」「下半身」に見立て、4回シリーズに分けて解説してみたいと思います。
身長・体重・視力などの測定結果は、数値を見ればすぐに状態が把握できるし、前回に比べて増えたのか減ったのかも誰にでも理解できます。
なぜなら、我々は小学生の頃から身体測定をおこなっており、去年の自分と比べてみたり、友達と比べあってみたり、その歳の平均値と比べてみたりなど、自分の中での基準値が当たり前の数値としてインプットされているためです。
では、中性脂肪120mg/dl、γGTP60 U/Lなどの数値を示されて、私達はその良し悪しを判断できるでしょうか?過去に異常数値が出た経験があるなどで気を付けていない限り、馴染みのないこれらの数値を聞いてもピンとこないのではないでしょうか。
会社も人間と同じ“生き物”です。
現在の会社の状態を知らせてくれる健康診断書が、年に1度作成する決算書(損益計算書&貸借対照表)であり、毎月作成している試算表です。
経営者である以上、会計に馴染みがなくても、決算書を読めないということは会社の健康状態が把握できないということです。非常に危険ですね。
この機会に、会社の健康診断書を読み解けるようになりましょう!
会社の“顔”である収益性とは?
「おっ、今日も元気がいいねー」とか「最近なんか疲れてる?」など、顔を見ればなんとなくその人の体調や精神状態を感じ取ることができます。
会社も同じで、パッと見た瞬間に、元気なのか、困っているのか、疲れているのかなどを決算書・試算表から瞬時に読み取ることができます。
会社にとって重要な数値として「営業利益」「経常利益」「税引前当期利益」などがあります。もちろん利益を見れば赤字か黒字かはわかりますが、今回はこの「利益」を使って会社の「顔」を診断してみましょう。
会社の「顔」を診断する3つの指標
①売上高営業利益率
まず一つ目の診断指標は「売上高営業利益率」です。
例えば、「営業利益1億円達成!」と書かれていると、世間には「すごいなぁ」という印象を受けると思いますが、これにセットで「実は年商は100億円の会社なんですけどね。」という情報が添えられていたらどうでしょう?「ちょっと少ないかな…」という印象に変わると思います。
営業利益や経常利益などの利益も重要なのですが、それだけでは判断を誤ってしまいます。
例えば、身長183cmだと、周りからは「大きいね」と言われ続けて育ちますが、「プロバスケットボール選手」という環境の中だと「小さい」という事実を突きつけられます。
このように利益を判断する場合にも“相対的に”あるものと比較して判断することで冷静にその利益の額を理解できるようになります。その相対的なものとして「売上高」を使います。
先ほどの例だと、売上高が100億円で営業利益が1億円だと、
営業利益1億円÷売上高100億円×100=1%(売上高営業利益率)
売上高営業利益率は1%という会社になります。
では、売上高が1億円で、営業利益が1,000万円の会社の場合はどうでしょう?
営業利益1,000万円÷売上高1億円×100=10%(売上高営業利益率)
売上高に対する営業利益率が10%の会社と1%の会社、どちらの「顔」の方が良いと思いますか?1億円売り上げて10%の1,000万円の利益を残せる会社の方が表情がイキイキしていること間違いありませんよね。
さらに、後者が同じ100億円が売ることができれば10%の10億円の利益を残すことができるので、前者よりも10倍良いという評価もできます。
もちろん現時点での1億円と1,000万円という利益の額だけで比較すれば、1億円のほうが優れて見えますが、売上高との割合で相対的に判断すると、売上高営業利益率1%の会社は、1億円あっても満足してはいけませんよ、という警告としても捉えることができるようになるのです。
この売上高営業利益率は、業種にもよりますが一般的にまずは「5%」を目標にし、それをクリアしている会社は10%、15%と高い目標値を設定してみましょう。率が高ければ高いほど健康的でイキイキした顔つきだと判断しましょう。
②売上高〇〇利益率
〇〇利益の中には先ほどの「営業利益」のほかに「経常利益」と「当期純利益」があります。これらも先ほどの「売上高営業利益率」と同じで、分子にくる利益額が「経常利益」や「当期純利益」になっただけです。
「経常利益率」も「売上高当期利益率(税引前)」もまずは「3%」を目安にして、それが達成出来たらさらに高い数値になるように意識をしましょう。
③ROA:総資産〇〇利益率
ここまでは「利益額」と相対的に比べるものとして「売上高」を使用してきましたが、それとは別に「総資産額」または「総資本額」を使う指標もあります。
売上高は利益と同じ損益計算書に記載されているので比較がしやすい指標ですが、この「総資産額」または「総資本額」はもう一方の貸借対照表に記載されている金額なので、ちょっぴり難易度が上がります。
なお「総資産額」と「総資本額」は結果的に同じ金額になりますが、貸借対照表における左側の総額と右側の総額の呼び方の違いだけなので、ここでは「総資産額」を使います。
例えば、当期純利益が同じ1,000万円のA社とB社があるとしましょう。A社の総資産額は1億円で、B社の総資産額は10億円の場合、どちらがより笑顔な会社でしょうか?計算方法は先ほどの売上高当期純利益率と同じで、分母に総資産額を持ってくるだけです。
A社:当期純利益1,000万円÷総資産1億円×100=10%
B社:当期純利益1,000万円÷総資産10億円×100=1%
総資産とは会社が持っている全ての財産です。それをフル活用して得た利益が1,000万円ということになります。10億円分の財産をフル活用して1,000万円(=1%)の利益を獲得したB社よりも1億円分の財産で1,000万円(=10%)の利益を獲得できたA社のほうがより笑顔であることは想像できるかと思います。
この総資産〇〇利益率はROA(リターン・オン・アセット)と呼ばれる、ちょっとカッコイイ表現の経営指標なのですが、売上高〇〇利益率とセットで覚えておくとより客観的に会社の利益状況を診断できるようになります。
なお、このROAもまずは売上高営業利益率と同じ「5%」を目安にしましょう。
まとめ
収益性は会社の「顔」=表情を見るための重要な指標です。
「おっ、今日も元気がいいねー」と言われたいし、言いたいですよね。
利益は「額」だけではなく「率」で見るスキルを身に付けておきましょう。