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節税を意識した 投資・運用方法②

2021年 7月15日
会計・財務

こんにちは。税理士の藤井です。

昨今では、投資や資産運用は当たり前の時代となりました。若い人からお年寄りまで、何かしらの資産運用をしていない人のほうが稀なくらいです。

株式や投資信託、不動産投資等、たくさんの運用方法がありますが、運用での儲け(利益)に対しては税金が課されます。従って、税引き後の儲け(利益)が、手元に残るお金になります。

ですから、課税される税金を加味して、手取りが最大になる運用方法を考えることが投資・資産運用における成功の秘訣となります。

今回は、前回と同様の前提の人が、不動産投資を行った場合にどのくらい税負担があり、どれくらい手元にお金が残るのかを具体例を挙げて見ていくことにします。

【事例のための前提】
年収1,200万円の給与所得者(サラリーマン)
年間の社会保険料(健康保険・厚生年金保険料)が140万円
給与所得控除額195万円、基礎控除48万円
課税される所得金額817万円
⇒所得税額124万3100円(所得税率23%)+住民税額81万7000円(住民税率10%)=税額合計206万100円

不動産投資の課税について

不動産投資による利益は、不動産所得として課税されます。不動産所得の計算方法は、

不動産収入-必要経費=利益

この利益が不動産所得となりますが、青色申告の承認を受けている人は、さらに55万円か65万円、または10万円の青色申告特別控除があり、利益から差し引くことができます。


55万円の青色申告特別控除と65万円の青色申告特別控除

まず、55万円の青色申告特別控除について説明します。

55万円の青色申告特別控除を受けるための要件は以下の3つの要件を満たす必要があります。
1.不動産所得を生ずべき事業を営んでいること
2.これらの所得に係る取引を正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)により記帳していること
3.上記2.の記帳に基づいて作成した貸借対照表及び損益計算書を確定申告書に添付し、この控除の適用を受ける金額を記載して、法定申告期限内に提出すること

特に注意する点としては、1.の「事業を営んでいる」の文言です。55万円の控除のためには、不動産投資が事業的規模でなければなりません。事業的規模とは、原則として社会通念上事業と称するに至る程度の規模で行われているかどうかによって、実質的に判断します。

例えば建物の貸付けについては、次のいずれかの基準に当てはまれば、原則として事業として行われているものとして取り扱われます。

1.貸間、アパート等については、貸与することのできる独立した室数がおおむね10室以上であること。
2.独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。 

では、55万円の控除がある場合、どれくらい節税効果があるでしょうか。

所得税・住民税率合計が、33%の人であれば、55万円×33%=18万1500円 税金が少なくなります。
青色申告の承認を受けることで毎年18万1500円のお金が手元に残るということです。10年で180万円。これは、とても大きいですね。

では次に、65万円控除の要件ですが、これは上記青色申告特別控除の要件を満たし、さらに下記1.2.の要件を満たした場合に適用できます。

1.その年分の事業に係る仕訳帳及び総勘定元帳について、電子帳簿保存を行っていること
2.その年分の所得税の確定申告書、貸借対照表及び損益計算書等の提出を、確定申告書の提出期限までにe-Tax(国税電子申告・納税システム)を使用して行うこと


10万円の青色申告特別控除

最後の10万円控除は、55万円または65万円控除の要件に該当しない青色申告者が受けることができます。10万円控除について、わかりにくいかもしれませんので、例を挙げて説明します。

例えば、実家が空き家になったので、賃貸に出したが、節税になるので55万円の青色申告特別控除が適用できるのでしょうか。

答えは、適用できません。
なぜかというと、不動産の貸付が、事業的規模を満たしていないからです。「室数がおおむね10室以上または独立家屋が5棟以上」が事業的規模の目安です。実質的に判断することになりますが、おおむねこの規模以上の不動産貸付を行っていないと、55万円の特別控除の適用はできません。
ただし、青色申告の承認を受けた場合、このようなケースでも10万円の特別控除は可能です。

とにかく、不動産投資をする際は、青色申告の承認を受けることが節税の第一歩です。

不動産投資の落とし穴

さて、次に、下記具体例で2つの年度の収支がどうなるかを見ていくことにします。

【具体例】
木造新築1棟アパート1億1,000万円(土地6,600万円、建物4,400万円、1部屋月額家賃6.5万円、8部屋)を金融機関からのフルローン(35年元利均等、金利1.8%)で購入し貸付を開始した場合

・投資後、11年目の年間収支にかかる課税
家賃収入6.5万円×8部屋×12ヵ月=624万円

・必要経費
減価償却費200万円
固定資産税20万円
管理費他60万円
火災保険料7万円
支払利息150万円
経費合計437万円
借入金元金支払い270万円

・不動産所得
624万円(家賃収入)-437万円(経費合計)-10万円(青色申告特別控除)=177万円
※10室に満たないので、青色申告特別控除は10万円で計算しています。

・不動産所得に対する所得税・住民税額
83万円×33%(所得税率23%と住民税率10%の合計)=27.39万円
94万円×43%(所得税率33%と住民税率10%の合計)=40.42万円
合計67万8100円

11年目の1年間キャッシュフロー
387万円(減価償却前利益)-67万8100円(所得税・住民税合計額)-270万円(借入金元金支払い)=49万1900円
この年は、税金を差し引きしても年間49万1900円、手元にお金が残ります。

・投資後25年目の年間収支にかかる課税
家賃収入6.5万円×8部屋×12ヵ月=624万円

・必要経費
減価償却費0万円(法定耐用年数経過のため)
固定資産税10万円
管理費他60万円
火災保険料7万円
支払利息70万円
経費合計147万円
借入金元金支払い350万円

・不動産所得
624万円(家賃収入)-147万円(経費合計)-10万円(青色申告特別控除)=467万円

・不動産所得に対する所得税・住民税額
83万円×33%(所得税率23%と住民税率10%の合計)=27.39万円
384万円×43%(所得税率33%と住民税率10%の合計)=165.12万円
合計192万5100円

25年目の1年間キャッシュフロー
477万円(減価償却前利益)-192万5100円(所得税・住民税合計額)-350万円(借入金元金支払い)=△65万5100円
25年目になると、税引き後のキャッシュフローはマイナスになります。

従って、毎年手元資金の持ち出しがないと、不動産投資を維持できないことになります。

なぜこうなったかというと、2つの要因があります。
一つ目は、減価償却費が法定耐用年数を過ぎたため0円となったことです。もう一つは、借り入れが元利均等のため、年々支払利息の額が減り、元本返済の額が増えるためです。いずれも、経費が減り、課税所得が増える要因となります。

その結果、納税額の増加が不動産投資で得られるキャッシュフローを超えてしまったのです。

このような事例は現実によくあることです。投資や資産運用を考える際、納税についてしっかりとした知識がないと取り返しがつかないことが起こります。

近年、不動産投資がブームのようですが、しっかりとした納税知識を身に着け、失敗のないようにしたいものです。

藤井 悟
藤井 悟
株式会社YKプランニング 社外監査役

山口大学大学院経済学研究科修了。税理士法人行本事務所広島支店の立ち上げを経て、2016年4月に代表社員就任。2023年9月、YK社会保険労務士法人を設立し代表社員就任。

保有資格はCFP、1級FP技能士、宅地建物取引士。創業支援とクラウド会計が得意。愛車はRebel250。