レガシーからSaaSへ中小企業のDX
「DXを進めたい」「業務を効率化したい」と思っていても、実際には既存のシステムがネックになって動けないという声をよく耳にします。変化の激しい時代において、システムは単なる業務ツールではなく、競争力や収益力を左右する経営基盤そのものです。
今回は、レガシーシステムの問題点を整理したうえで、現実的な選択肢としてのSaaSを分かりやすく解説します。特に中小企業が取り組みやすい視点を意識しながら、経営の観点で次の一歩を考えていきます。
いま、なぜ「レガシー」から動く必要があるのか
テレワークの定着やクラウド活用が当たり前になった現在、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」は一部の先進企業だけのテーマではなく、中小企業にとっても避けて通れない経営課題になっています。
しかし実態としては、「DXの必要性は理解しているものの、既存システムが足かせになって身動きが取れない」という企業が少なくありません。特に長年使い続けてきた社内システムが、変革の障害になっているケースが多く見られます。
その代表例が、いわゆる「レガシーシステム」です。まずレガシーシステムの問題点を整理したうえで、その先にある選択肢としてのSaaS(Software as a Service)について考えていきます。
レガシーシステムとは何か
「レガシー(legacy)」という言葉は本来、「遺産」や「受け継いだもの」というポジティブな意味を持ちます。しかしITの文脈におけるレガシーシステムは、「時代遅れ」「古い」といったネガティブなニュアンスで使われることが一般的です。
簡単に言えば、レガシーシステムとは導入から長い年月が経過し、維持・改修に多大なコストがかかるシステムのことを指します。具体的には次のような特徴があります。
・導入から年数が経っている
・保守や改修のコストが高い
・一部の担当者に知識が集中し、属人化しやすい
・システム全体像が分かりにくく、ブラックボックス化している
また、現在のクラウド中心のIT環境を前提にすると、レガシーシステムには次のような課題もあります。
・クラウド前提の業務環境と相性が悪い
・データ活用(BI・自動化・AI)を阻害しやすい
・若手人材の採用・定着にマイナスに働く可能性がある
このように、かつては「会社の財産」だったはずのシステムが、気づかないうちに技術的負債になっているケースが増えています。
“2025年の崖”の現在地と、レガシー放置のリスク
レガシーシステムの問題を象徴するキーワードとしてよく挙げられるのが、経済産業省が2018年に提唱した「2025年の崖」です。
これは、既存システムの老朽化やブラックボックス化が進むことで、2025年以降に日本企業の競争力が大きく低下する可能性を指摘したものです。「2025年の崖」は過去の話ではなく、いまも続く現在進行形の課題と言えます。特に次のような問題が残っています。
・部署ごとに異なるシステムが乱立している
・データが分断(サイロ化)され、横断的に活用できない
・基幹システムが複雑化し、改修が難しくなっている
こうした状況でレガシーシステムを使い続けると、次のようなリスクが生じます。
① コストの硬直化
システムの維持費が増え続け、「守りのコスト」に追われてしまい、新しい施策や人材投資に回す予算が減ってしまいます。
② コンプライアンス・セキュリティのリスク
アクセス権限やデータの所在が曖昧だと、監査対応や内部統制の負担が増大します。個人情報保護やガバナンス強化の流れとも相性が悪くなりがちです。
③ DX・データ活用の停滞
レガシーシステムのままでは、BIツールや業務自動化、AI活用が進みにくく、結果として経営判断のスピードが遅れてしまいます。
SaaSとは?
こうしたレガシーシステムの課題に対する有力な選択肢のひとつが、SaaSです。SaaSは「Software as a Service」の頭文字を略したもので、一般的に「サース」と読まれます。
SaaSとは、ベンダーがクラウド上で提供するソフトウェアを、ユーザーがインターネット経由で利用するサービスのことを指します。身近な例としては、Google Workspace(スライド、スプレッドシートなど)、Microsoft 365(Word、Excel、Teamsなど)があります。
これらはいずれも、ユーザーが自社サーバーにソフトをインストールするのではなく、オンライン上で利用する仕組みになっています。
SaaSは特にテレワークとの相性が良く、インターネットがあればどこからでもアクセス可能であり、複数人で同時編集・共有がしやすく、アップデートや保守はベンダー側が対応してくれるなどの特徴があります。
中小企業にとっては、「情シス人員が少なくても運用しやすい」「小さく始めて必要に応じて拡張できる」という点も大きなメリットです。
SaaSのメリット・デメリット
SaaSには多くの利点がありますが、万能ではありません。メリットとデメリットを冷静に理解することが重要です。
主なメリット
・初期コストが低い 自社開発や大規模導入に比べて導入しやすい
・運用負担が軽い アップデートや保守は基本的にベンダーが対応
・データがクラウドに集約 情報共有や分析がしやすい
想定されるデメリット
・カスタマイズの自由度が低い 自社の業務に合わせるには運用側の工夫が必要
・障害時の影響を受ける可能性 インターネットやサービス側のトラブルに依存
・セキュリティへの不安 データの外部保管への心理的抵抗と不正アクセスのリスク
ただし、現在では「SaaS=危険」という単純な図式は必ずしも正しくありません。適切な設定や運用ルールを整えれば、自社運用よりも高いセキュリティを確保できるケースも多いのが実態です。
レガシーからSaaSへの第一歩
レガシーシステムをそのまま使い続けることは、コスト増大や競争力低下につながるリスクがあります。一方で、SaaSはDXの第一歩として現実的で有力な選択肢です。
大切なのは、「完璧な刷新」を目指すことではありません。まずは自社のシステムの現状を把握し、どのデータがどこにあるのかを整理してみましょう。その後、無理のない範囲で一部の業務からSaaSを取り入れるなど、小さく始めることをおすすめします。
先送りし続けること自体が、いま最も大きなリスクです。まずは現状を見直すところから、少しずつ始めてみてはいかがでしょうか。


