無印良品の世界進出と第二創業を支える経営方針
企業が一定の規模まで成長すると、売上や店舗数だけでは測れない問いが出てきます。
このまま拡大を続けるのか。それとも、一度立ち止まって「何のために成長するのか」を見直すのか。
無印良品を展開する株式会社良品計画は、まさにそうした転換点にある企業のひとつです。近年掲げているキーワードは「第二創業」と「世界進出」。ただし、その意味は単純な出店拡大ではありません。
創業以来の思想を見つめ直しながら、商品、店舗、地域、そして世界へどう広げていくか。現在の良品計画の経営は、そうした問いに正面から向き合っているように見えます。
今回は、良品計画の経営方針や社長交代の背景をもとに、無印良品がいま何を目指しているのかを整理してみます。
第二創業で変わったのは、事業の広げ方ではなく企業の役割
良品計画は2021年に「第二創業」を掲げ、「人と自然とモノの望ましい関係と心豊かな人間社会」を考えた商品、サービス、店舗、活動を通じて「感じ良い暮らしと社会」の実現に貢献することを企業理念に据えました。
経営方針では、その実現に向けて二つの使命を明確にしています。
ひとつは、日常生活の基本商品群を、誠実な品質と倫理的な視点から開発し、使うことで社会を良くする商品を、手に取りやすい価格で提供すること。
もうひとつは、店舗を地域のコミュニティセンターとして位置づけ、地域の人たちと課題や価値観を共有しながら、地域に良いインパクトを生み出すことです。
この二つを並べてみると、良品計画が見ているのは「何を売るか」だけではないことがわかります。
商品を通じて日常生活の基本を支え、店舗を通じて地域社会にも関わっていく。つまり第二創業とは、新しい事業を付け加える話というより、企業の役割そのものを広げ直す取り組みなのだと捉えられます。
無印良品の原点は、いまのSDGs対応よりもずっと前にあった
良品計画の現在の経営を考えるうえで、見落とせないのが無印良品の原点です。
良品計画は1980年に「わけあって、安い。」という考え方からスタートしました。
大量消費社会へのアンチテーゼとして、「素材の選択」「工程の点検」「包装の簡略化」という三つの視点を守りながら、実質本位の商品づくりを続けてきた企業です。この考え方は、いまで言えばサステナビリティやSDGsにも通じます。
ただ重要なのは、良品計画にとってそれが後から付け加えたテーマではないことです。商品づくりの出発点にすでに、環境負荷を抑えること、無駄を減らすこと、社会との関係を問い直すことが組み込まれていた。そこに、この企業の一貫性があります。
現在の経営方針でも、商品やサービス、活動の全ライフサイクルにわたって、地球環境負荷の低減や個人尊重に取り組む姿勢が示されています。ESGは周辺的な活動ではなく、本業そのものとして扱われているのです。
いま多くの企業がサステナブル経営を掲げる中で、良品計画の特徴は「対応している会社」というより、もともとその設計思想を持っていた会社である点にあるのかもしれません。
MUJI REPORT 2025に見る、世界進出を支える経営の土台
第二創業を語るうえでは、「公益人本主義経営」や「コオウンド経営」といった考え方も注目されました。従業員や社会との関係性を重視する姿勢は、いまも無印良品の重要な土台です。
一方で、MUJI REPORT 2025や現在の経営方針を見ると、いまの良品計画は、そうした理念をどう事業として回すかに重心を移していることがわかります。
レポートから見えてくるのは、無印良品を単なる商品ブランドとして拡大するのではなく、「日常生活の基本を担う存在」として育てながら、店舗を地域のコミュニティセンターへと広げていく構想です。
この視点は、世界進出の文脈でも重要です。
海外での成長は、出店数を増やせば実現できるものではありません。各地域でブランドの認知や期待のされ方が異なる以上、商品、店舗、オンライン、地域との関わり方まで含めて、価値を伝わる形に整えていく必要があります。
その意味で、MUJI REPORT 2025が示しているのは、単なる中長期目標ではなく、世界で成長するための経営基盤の再設計だといえます。
個店経営、人財投資、ESGの本業化、感じよいオンラインの強化といった要素は、いずれも理念をより広い市場で成立させるための土台として位置づけられているように見えます。かつて概念として語られていた「人を軸にした経営」は、いまではより具体的な運営の仕組みへと置き換わりつつあります。
良品計画は現在、思想を掲げる企業から、思想を世界で実装する企業へと進もうとしているのかもしれません。
(参考:MUJI REPORT 2025)
第二創業は次のフェーズへ
2024年11月には、有楽町店長、販売部長、東アジア事業部長、商品本部長、中国大陸事業部長などを歴任した清水智氏が社長に就任しました。店舗、販売、商品、海外事業、とくに中国事業まで幅広く経験してきた経歴を見ると、現場とグローバルの両方を理解した人物といえます。
一方、前社長の堂前宣夫氏は2021年の就任以降、良品計画を「第二創業」のフェーズへ導いた存在でした。原点回帰を打ち出し、2030年に向けた大きな構想を掲げたことで、無印良品の進む方向を改めて社内外に示したといえます。
そう考えると、このバトンタッチは、理念を再確認する段階から、それを世界で実装し、事業として成立させていく段階への移行と見ることもできます。
清水氏の下で求められるのは、新しい理念をつくること以上に、すでに掲げられた思想を商品、店舗、地域、海外事業の中でどう回し続けるかという仕事なのかもしれません。
良品計画の世界進出は、いま「量」より「質」の設計に入っている
良品計画の3ヶ年ローリング計画(2026年8月期~2028年8月期)では、2028年8月期に営業収益1兆800億円、営業利益1,080億円、営業利益率10%を目指す計画が示されています。
店舗数についても、年平均の純増数として国内45店舗、海外70店舗を計画しており、世界での成長を明確に打ち出しています。
ただし、その中身は一律の拡大ではありません。
国内では出店を維持しながら収益性を改善し、中国大陸では1店舗当たりの収益性を高める。東南アジア・オセアニアでは旗艦店でブランド認知を広げ、欧州では再成長を狙う。地域ごとに異なる前提を踏まえ、戦い方を分けているのが現在の特徴です。
また、世界での成長を支える基盤として、出店拡大だけでなく、日本で磨いたオペレーションの展開、OMO強化、SCM改革、IT整備、人財投資、本業としてのESGも掲げられています。
ここから見えてくるのは、良品計画の世界進出戦略は、無印良品を海外に広げることそのものではなく、各地域でその価値を成立させるための運営基盤を整えるプロセスになっているといえます。
良品計画の事例を、自社にどう引き寄せて考えるか
良品計画の経営は、大企業ならではの話に見えるかもしれません。ただ、そこから受け取れる問いは、規模を問わず多くの企業に通じるものです。
たとえば、自社が大切にしている価値は何か。
その価値は、いまの市場や社会に伝わる言葉になっているか。
拡大の先に、どんな役割を果たしたいのか。
理念は、現場の運営や働く人の実感にまで落ちているか。
良品計画の現在地を見ていると、成長とは単に規模を大きくすることではなく、自社の価値をより広い場所で成立する形へ整えていくことなのだと感じさせられます。
世界進出も、海外に出ることだけを意味するのではなく、自社の価値が別の市場や地域でも通用するかを試す機会と捉えられるのかもしれません。
まとめ
良品計画の「第二創業」と世界進出は、派手な変革というより、創業以来の思想を、いまの社会や世界に合わせて実装し直す取り組みとして捉えると、その輪郭がよりはっきりと見えてきます。
商品を通じて日常生活の基本を支え、店舗を通じて地域とつながり、世界各地でブランドの意味を丁寧に伝え直していく。そして、出店戦略や収益性、運営基盤、人材、ESGまでを一体で設計する。いまの良品計画は、そうした経営の難しさと面白さの両方に向き合いながら、次の成長を模索している企業なのではないでしょうか。
第二創業とは、まったく新しいことを始めることだけを指すものではありません。これまで大切にしてきた価値を見つめ直し、それを次の時代に合った形へ育て直していくことでもあります。変化の大きい時代だからこそ、「自社が本当に大切にしてきたものは何か」「その価値を、これからどのような形で届けていくのか」を改めて問い直す機会も増えているのかもしれません。
良品計画の歩みは、そんな自社らしさの磨き方について考えるヒントを与えてくれる事例ではないでしょうか。


