今更聞けない「移動累計」
こんにちは。YKプランニング代表取締役社長の岡本です。
今回は、今更聞けない簿記・会計の用語として「移動累計」についてご説明いたします。
とある日常、経営者と会計事務所の担当税理士との会話。




「移動累計」
“累計”とは、ある数値を順々に足し合わせていくことをいいます。それを“移動”しながらおこなっていくことを移動累計といいますが、これを見るためには「最低24か月分の数値情報」が必要となります。
決算書や試算表など会計における世界では、一般的には1年(=12か月)という期間で区切られていることが多いので、この移動累計を活用するためには2期分のデータを用意して多少の加工が必要となりますが、その手間をかけてでも理解すべき知識です。
ぜひともこの機会に「移動累計」の面白さを理解して、実践に生かしていきましょう!
24か月分の月間売上金額を用意
まずは会計ソフトの試算表データから2期(24か月)分の“売上額”を月次単位で用意します。
ここでは一番オーソドックスな“売上額”を例に話を進めますが、仕入高や人件費、広告宣伝費や外注費など重要で金額が大きい経費でも同じようにみることができます。
【試算表から抜き出した24か月分の月間売上高】※決算月は12月一般的な会計ソフトから出力されただけの試算表だと、各月の売上額と、会計期間としての年間売上額だけしか把握できませ。
ちなみに、この例の場合だと前年対比110%の年間売上高であることがわかります。
14,800千円(20x2年合計)÷ 13,450千円(20x1年合計)× 100 = 110.0%
それではここで本題の「移動累計」について考えてみましょう。
移動累計とは、常に12か月の合計額を集計しながら1か月スライドさせていく考え方です。
例えば1月~12月の年計から1か月進むと、20x1年1月(古い1月)のデータを捨てて、20x2年(新しい1月)のデータを合計値に加えます。同じようにさらに1か月進むと、古い2月のデータを捨てて新しい2月のデータを加える、といった感じになります。
移動累計のメリット
この移動累計には2つのメリットがあります。
まず1つ目は、常にタイムリーに“鮮度の高い年間売上額”が把握できます。財務会計における決算書や試算表は“会計期間”や“年度”というルールに基づいて資料が作成されるため、新年度に入ると損益計算書に関するデータはいったんリセットされてしまいます。そのために、年間の売上額は12か月が経過しないと把握できません。ただ、それは会計ソフトの仕様上の都合であって、移動累計を知っていてちょっと工夫さえすれば、常に12か月間の売上額を把握することは可能となります。
そして2つ目のメリットとしては季節ごと月ごとの諸条件、いわゆる繁忙期や閑散期の波を排除した比較ができるということです。この移動累計に似ているものとして四半期ごと(クオーターごと)の集計があります。しかし第1四半期(1Q)、第2四半期(2Q)、第3四半期(3Q)第4四半期(4Q)は3か月単位での集計となるため、例えば下半期にかけて繁忙期がくる会社だと第1四半期と第4四半期の売上額は全く比較にならないケースがあります。もちろん、前期の第1四半期と今期の第1四半期との比較は意味がありますが、それでも3か月待たないと比較ができません。
移動累計の活用方法①
改めて先ほどの例に戻りますが、24か月分のデータがあると13本の移動累計による年間売上額棒グラフが作成できるのでそちらを見てみましょう。
一番左のグラフ(青)と一番右のグラフ(青)は、それぞれ1月~12月のいわゆる会計期間に合わせた年計グラフですが、その間に挟まれている11本のグラフ(赤)は移動累計を行うことで初めて見えてくる実態です。
このグラフの例で見えてくるのは20x2年6月くらいまでは前期とそれほど変わりはありませんが、7月以降前期と比較して著しく売上げが伸びているのがわかります。下半期戦略として前年とは違う取り組みをおこなって、それがヒットした可能性が推定されますが、この結果がタイムリーに見えるというのが移動累計の面白さです。
ほかにも見えてくるものとして、例えば3月4月5月6月頃のグラフはほぼ横ばいです。これは前期同月と比べてほぼ同じくらいの月額売上であることがわかります。
移動累計の活用方法②
この移動累計が理解できるとさらにタイムリーな財務分析をおこなうことが可能となります。
以前、私のブログで棚卸資産回転率(回転日数)というものを解説していますが、そちらと組み合わせると、よりレベルの高い在庫管理をおこなうことが可能となります。
例えば、毎月月末に300万の在庫が存在するケースだと以下のようになります。これはあくまでも一例ですが、例えば在庫を増やさずに売上を増やすということは、資金繰りにもプラスの影響を及ぼします。移動累計を活用すると、上記の表のように回転日数が減っていることを月末にタイムリーに把握することが可能となります。
今回は「移動累計」について解説しましたがいかがでしたでしょうか?
この裏には、これまで普段触れている税金の申告のための決算書、銀行へ提出するための試算表という義務的な財務会計という目線だけではなく、経営者のための会計である管理会計の一つの手法として、12か月間のデータをスライドさせながら経営に生かすための考え方について解説しました。
ぜひこの機会に「移動累計」を理解していただき、実践に生かしていただければ幸いです。

1998年3月山口大学経済学部卒業。学校法人大原簿記法律専門学校入社。簿記・税理士講座の講師を務めた後、2003年行本会計事務所に入所。2017年株式会社YKプランニング代表取締役社長就任。ミッションである「独りぼっち経営者を0に」実現のために日々奮闘中。
趣味は長距離運転、スキンダイビング(素潜り)、GoogleMAPを見ること。