収益性を示す「ARPU」とは?計算式と活用方法
これまで、通信キャリアの月額課金モデルの評価に活用されていた「ARPU(アープ)」ですが、最近では利便性の高さから、SaaSビジネス、SNS、スマートフォンアプリなどの収益指標としても広がりを見せています。
新規顧客に販売するコストは既存顧客に販売するコストの5倍かかるという「1:5の法則」からもわかるように、サービスのユーザー数を増やし続けるには莫大なコストが必要です。また、AIの進化によりビジネスが高速化する中、多くの業界でサービスが飽和状態となり、この傾向は強まると予想されます。
しかし、ARPUで収益状況を把握することで、今後取るべき改善策を検討でき、サービスの飽和状態から抜け出すことも期待できます。
今回は、効率的に収益を向上させるための指標「ARPU」について解説します。
ARPUとは何か?
ARPUとは、「Average Revenue Per User」の略で、企業が提供するサービスや製品における1ユーザーあたりの平均収益を示す指標です。
特に通信事業、サブスクリプションサービス、モバイルアプリやゲーム業界などで広く活用されています。ARPUは、ユーザー単位での収益性を示すため、事業の健全性や収益構造を把握するうえで欠かせない数値です。
事業の立ち上げ時期には、一般的に顧客数を増やすことが重要視されます。しかし、ある程度サービスの普及が進むと、顧客数が伸び悩むため、1人あたりの売り上げを伸ばすことが重要となってきます。
事業の成長に伴い、顧客数を増やすことよりも、ユーザー1人あたりの平均売り上げを伸ばす方が効果的になってきます。ARPUをいかに引き上げるかが、事業拡大と利益増加に直結するため、この指標の最適化は事業戦略において非常に重要となってきます。
ARPUの活用方法
ARPUの活用方法は多岐にわたりますが、ここでは5つをご紹介します。
①事業の収益性評価
ARPUを定期的に追跡することで、ユーザー1人あたりの収益が安定しているか、または向上しているかを確認できます。たとえユーザー数が増減しても、ARPUが健全な数値を維持していれば、事業の基盤が安定していると言えます。
②サービス改善の指針
ARPUが低いと、サービスの価値が十分に伝わっていない可能性が考えられます。その場合、提供する機能や価格設定を見直し、収益性を高める施策を検討する必要があります。
③ターゲティングの最適化
ARPUを利用者層別に分析することで、高収益をもたらすユーザーグループを特定し、マーケティングやサービス強化の対象を明確にできます。
④競合分析の基準
同業他社とのARPU比較により、自社サービスの収益性が市場でどの位置にあるのかを確認できます。競合よりも低い場合は、戦略的な見直しが必要な可能性があります。
⑤マーケティング効果の測定
新規キャンペーンやプロモーションがARPUに与える影響を測定し、その効果を判断する材料として活用できます。
ARPUは事業の収益構造を深く理解し、課題を特定するためのシンプルながら強力なツールです。これを活用することで、収益性向上やサービスの成長に向けた効果的な戦略を策定できます。
ビジネスモデル別|ARPUの計算方法
ARPUの基本的な計算式は、売上金額をユーザー数で割ることによって求められます。
・ARPU=売上金額÷ユーザー数
例えば、売上が100万円のサービスでユーザー数が500人だった場合、このサービスのARPUは2,000円となります。
しかし、この計算式では、過去の売上高に対するARPUしか計算できません。そこで、将来的なARPUを予測できるように、ここからはビジネスモデル別の計算方法を紹介します。
【利用課金モデル(サブスクリプションビジネス)】
サブスクビジネスの場合、ARPUは以下の計算式で求められます。
・ARPU=課金ユーザー1人あたりの平均売上高(ARPPU)×課金ユーザー率
※ARPPU(Average Revenue Per Paying User)=平均購入額×購入頻度
例えば、毎月サービスを購入しているユーザーの割合が30%、サービスを購入しているユーザーの1ヵ月の平均購入金額が5,000円、平均購入数が1点、購入頻度が月1回というケースだと、ARPPUとARPUは以下となります。
・ARPPU=5,000円×1点x1回=5,000円
・ARPU=5,000円×30%=1,500円
【広告表示課金モデル】
広告表示課金モデルの場合、ARPUは以下の計算式で求められます。
・ARPU=エンゲージメント×(CPM÷1,000)
ユーザー1人当たりの広告表示の機会(エンゲージメント)と広告の単価(CPM)を考慮します。CPMは広告が1,000回表示されるごとに発生する費用であるため、1,000で割ることで表示1回あたりの費用を算出できます。
例えば、CPMが100円、エンゲージメントが10回/日というケースを想定すると、ARPUは以下となります。
・ARPU=10回×(100円÷1,000)=1円
【クリック課金ビジネス】
クリック課金モデルの場合、ARPUは以下の計算式で求められます。
・ARPU=CPC×CTR
1クリックあたりの売り上げ(CPC)とクリック率(CTR)を使用します。CTRは、総クリック数÷広告表示回数で算出できます。
例えば、CPCが100円、広告表示回数が100,000回、クリック数が2,000回のケースだと、CTRとARPUは以下となります。
・CTR=2,000回÷100,000回=0.02(2%)
・ARPU=100円×0.02=2円
ARPUを向上させる方法
ARPUを向上させるためには、下記の点が重要となります。
①顧客ロイヤリティの向上
顧客ロイヤリティとは、顧客が会社やその商品・サービスに対して抱く愛着や信頼のことです。これを向上させると、顧客がその会社のリピーターになってくれる可能性が高まります。
その結果ARPUも向上します。
②アップセルとクロスセルの強化
アップセルとは、既存顧客に購入済みの商品のバージョンアップをおこなってもらうことです。既存顧客が自社商品に満足しており、顧客ニーズを把握していれば、購入済みの商品より高くても購入してくれる可能性は十分あります。また、クロスセルは、顧客が購入してくれた商品に加えて、関連した商品も併せて購入してもらう手法です。
いずれも顧客1人あたりからの収益を増やせるので、ARPU向上につながります。
③ターゲットセグメンテーション
ARPUの向上には課金ユーザーの数を増やすことも有効であり、そのためには有料プランの提供内容をユーザーにとって魅力的なものにする必要があります。基本的な機能は無料で提供しつつ、より魅力的な有料プランへ誘導する「フリーミアムモデル」の導入も効果的です。ただし、フリーミアムモデルは、非課金ユーザーの獲得から課金ユーザーへの移行までに時間を要するため、長期的な視点での運用が前提となります。また、有料プランの価格や無料サービスにおける機能制限を設定する際は、ユーザーニーズとのバランスが重要となるため、顧客視点を十分に考慮することが大切です。
効率的に収益向上をさせるための指標「ARPU」
今回は、ARPUの基本的な概念から、業界別の計算方法、さらに収益向上のための方法について解説しました。
ARPUは単なる数値ではなく、サービスの現状を可視化し、戦略的な意思決定を支える重要な指標です。特に、成長段階にある企業や、既存顧客の収益性を最大化したい企業にとって、その価値は計り知れません。
サービスが成熟し競争が激化する現代において、ただユーザー数を追い求めるのではなく、既存顧客からの収益をいかに効率よく引き出すかを検討してみてはいかがでしょうか。