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金融機関への決算書提出をデジタル化するメリット

2025年 2月27日
会計・財務 業務改善

こんにちは。YKプランニング 専務取締役 CTOの稲嶺です。
会計事務所のvalue-upを通じて日本中のスモールビジネスを支えるべく、日々テクノロジーと人を組み合わせたサービスの開発を指揮しております。
今回は、金融機関への決算書提出の現状とデジタル化するメリット、そしてデジタル化を実現するためのソリューションについてご紹介します。


根強く残る、紙の決算書提出

2024年11月に、野村総研から面白いレポートが公開されました。
参考:地域金融機関における決算書の入手・登録事務に関するアンケート調査結果

金融機関が受領する紙の決算書を並べるとハワイに到達する長さになるというのです。
これは金融機関だけでなく、補助金申請や企業統計アンケートの提出など、企業が外部に情報を提出する場合は、ほとんどが紙なので同じような状況です。おそらく、ハワイどころの騒ぎではなく、地球を1周するのではないかと思います。

DXが叫ばれる昨今、いまだ紙で決算書を受領しているのは、「決算書のデジタル授受」における課題が山積していることが要因です。


決算書提出の現状と課題

金融機関は、与信や融資の「定量的」判断のために融資先から決算書を定期的に入手しており、関連当事者を含めると以下のような処理をしています。
※金融機関:今回は銀行・信用金庫・信用保証協会を指します

1.(金融機関)融資先に決算書の提出を依頼
2.(企業)決算書のコピーやPDFを準備 ※会計事務所に依頼するケースも
3.(企業)金融機関に決算書を送付 ※持参・郵送・メール
4.(金融機関)担当者が内容を確認 ※書類不備等
5.(金融機関)決算書を本部処理センターに送付
6.(金融機関)OCR・手入力にて「融資管理システム」に登録 ※チェック
7.(金融機関)決算書のコピーやPDFを保管

決算書は基本「紙」なので、コピー、郵送、手入力、連絡などさまざまなコスト(負担)が発生しています。PDFは紙ではありませんが、「データ」ではなく電子「ファイル」なので、金融機関で用いるためには「データ化が必要」です。

野村総研のレポートにもあるように、「直接的」に決算書の処理に掛かる時間は30分程度とされています。しかし、これは金融機関スタッフが直接作業をしている時間と想定でき、先に記載した工程では企業側の時間コストや印刷コスト、郵送等に関わるコストなど、多くの副次的なコストが発生しています。

以前、弊社が複数の金融機関に時間コストも含めた実質的なコスト計算をしてもらったところ、幅がありますが、1件処理するために¥4,000~¥13,000のコストが掛かっており、平均値は約¥7,000でした。このコストは「建設的で前向きな投資コスト」ではなく「単純なマイナスコスト」であると言えます。


決算書のデジタル提出がもたらすメリット

企業と金融機関の双方にとって、紙やPDFベースの決算書管理は非効率的であり、データのやり取りに多大な時間とコストを要します。このような課題を解決するためには、会計データのデジタル化が不可欠です。以下に、その具体的なメリットを説明します。
1. 業務の効率化と時間短縮
現状では、企業は決算書を印刷・コピーし、金融機関に郵送または持参する必要があります。一方、金融機関も受け取った決算書をOCRや手入力でシステムに登録しなければなりません。デジタル化により、これらのプロセスが自動化され、企業はボタン一つで決算書を送信でき、金融機関も即座にデータを登録処理できます。これにより、提出・確認・登録の時間が大幅に短縮され、より迅速な融資判断が可能になると同時に、これまでかかっていたコストも削減できます。

2. データの正確性向上
現状では、OCRや手入力によるデータ登録のため、入力ミスやデータの欠損が発生する可能性があります。デジタル化されたデータを直接金融機関のシステムに取り込むことで、ヒューマンエラーを削減し、より正確な与信判断が可能になります。

3. ペーパーレス化と環境負荷の軽減
紙の決算書のコピーや郵送が不要になれば、ペーパーレス化が促進され、環境負荷も低減できます。特に、複数の金融機関や関連機関に提出する場合、紙の削減効果は大きくなります。

4. 融資判断のスピード向上
金融機関は決算書を迅速にデータ処理できるようになるため、融資審査がスムーズに進みます。これにより、企業は必要な資金をより早く調達でき、事業活動を滞りなく進めることができます。

5. 金融機関とのデータ連携が容易に
デジタル化された会計データをクラウド経由で共有すれば、金融機関とのデータ連携が容易になり、与信判断の迅速化だけでなく、企業の経営分析や資金繰り支援にも活用できます。

現状のアナログなプロセスを見直し、デジタル化を進めることは、単なるコスト削減ではなく、経営全体の生産性向上につながる重要な施策です。


決算書提出のデジタル化における課題

「決算書データをそのまま金融機関に渡せばいいじゃないか?」と誰もが思うところですが、以下のような阻害要因があり、PDFや紙のOCR処理が主流です。

■企業要因
・紙でもPDFでもすでに形になっているからそのまま渡した方がラク
・決算データを渡す「手段」がない
・データで渡す「インセンティブ・理由」がない
・会計事務所が代わりにやってくれるのがラク

■金融機関要因
・決算データを受領する「手段」が少ない
・受領手段が複数あるとオペレーションが統一できない
・決算データを受領できても、「形式がバラバラ」
・非対面強化のため、今は金融機関ポータル構築の優先順位が高い
・金融機関内のシステムの改修コストが膨大

■その他要因
日本固有の多種多様な会計ソフトの存在:形式がバラバラ
※規格統一の試みは過去にありましたが、その話はまた別の機会にできればと思います


進みつつあるデータ活用

現在、多くの会計システムベンダーは、方法はさまざまですが、金融機関から会計仕訳の元となる預金入出金情報を「データ」で受領して、仕訳を自動作成する機能を提供しています。データチェーンにより、効率化合理化が進んでいます。

以前は、お互いにデータを「紙」にして渡していました。現在、企業においては金融機関からデータをもらって決算書データを生成しています。しかし、金融機関には引き続きデータを「紙」にして返しているのは、少し皮肉な状況と言えます。


会計データの標準化技術と「bixid(ビサイド)」

弊社には、「会計データの標準化」に関する特許技術(特許第5261643号)があります。この技術を活用して、日本に存在するほとんどの会計ソフト(150種類以上)において、年1の「決算データ」だけでなく、毎月の「試算表データ」と日々の「仕訳(取引明細)データ」を規格統一したデータとして生成し活用するサービスを提供してきました。

そんな2017年に、この会計データ標準化技術を「紙での決算書のやりとりを解決するソリューションに活かせる」という構想のもと、当時の電通国際情報サービス(現:電通総研)と「会計データのデジタル授受」のサービスを構築することになりました。それがきっかけとなり、経営支援サービス「bixid(ビサイド)」を開発いたしました。
※プレスリリース:ISID_20170515_ABLINK.pdf

この構想自体にネガティブな意見はなく「そうするべきだ」という共感がある一方で、先に挙げたような阻害要因がありました。bixidでは企業側の阻害要因とバラバラな会計データの要因はクリアできます。しかし、金融機関側の受け入れ態勢が一番大きなハードルだったのは事実です。

この領域への世の中の関心自体は高く、その後、日本IBMと共に一大プロジェクトに参画しました。現在、このプロジェクトはさまざまな事情により終了しておりますが、bixidは会計データの活用において現在も開発を続けております。
IBM Japan Newsroom - ニュースリリース


決算書のデジタル提出を実現するために

決算書のデジタル化は、企業と金融機関双方にとって大きなメリットをもたらします。

業務の効率化、コスト削減、データの正確性向上、環境負荷の軽減、融資判断の迅速化など、現状の課題を解決し、よりスムーズな資金調達と経営支援を実現します。

しかし、デジタル化を進めるには、企業・金融機関双方の意識改革と、標準化技術の活用が不可欠です。

bixidは、企業と会計事務所が経営管理のために会計データを利用する「ついで」に金融機関にも必要なデータを送信でき、金融機関は企業への支援に集中できる、そのような世の中を目指して、発展してまいります。

稲嶺 旭
稲嶺 旭
株式会社YKプランニング 専務取締役 CTO

2005年3月青山学院大学経済学部卒業。同年株式会社オービックビジネスコンサルタントへ入社。メガバンクを中心とした資金管理システムの開発を経て、2010年行本会計事務所に入所。2017年株式会社YKプランニング専務取締役就任。