「正しい数字」では足りない?経営に“使える数字”の考え方
こんにちは、YKプランニング代表取締役の岡本です。
会計の数字はきちんと揃っている。試算表も月次も出ているし、前年との比較もできている。それなのに、いざ経営の話をしようとすると、どこか手応えがない。判断しきれない。決めきれない。そういう感覚を持ったことがある方は、きっと少なくないと思います。
今回は、「数字は正しいのに、経営判断には使いにくい」という状況がなぜ起きるのか。
“数字が整っていること”と“数字が経営に役立つこと”の間にある小さなズレについて、整理してみたいと思います。
数字が揃っていても、経営判断に迷ってしまう理由
数字が揃っている状態というのは、とても安心感があります。
売上や利益、粗利率、人件費、固定費、そういった項目がきちんと並んでいるだけで、「ちゃんと経営している」という感覚を持てるのは自然なことです。ただ、その安心感と引き換えに、「数字を見ているのに決めきれない」という状態が生まれることがあります。
たとえば、次のようなケースがあります。
売上は前年より伸びている。利益率は少し下がっている。人件費は増えているけれど、採用分だと説明できる。すべて説明はつく。
でも、「では次に何をどうするか?」という話になると、言葉が止まってしまう。
このとき起きているのは、数字が足りないのではなく、“数字の役割が「確認」にとどまっている”状態です。
確認とは、「合っているか」「正しいか」を見ることです。もちろんそれは大事ですが、確認だけでは判断は生まれません。なぜなら、確認は“過去”を見る行為で、判断は“未来”に向かう行為だからです。
数字が揃っているのに迷ってしまうとき、その数字は「過去の説明」にはなっていても、「未来の材料」にはなっていないことが多いのです。
正しさと役立ちやすさは別の話
会計の世界では、「正しい」ということがとても重視されます。
ルールに沿っているか、整合性が取れているか、過不足がないか。これはこれで、とても重要です。ただ、経営の場面では、「正しい」ことと「役に立つ」ことは必ずしも一致しません。
たとえば、部門別の損益が正確に出ている。けれど、その数字だけでは、その部門が今後どうなるのかまでは見えてこない。あるいは、前年差はきれいに比較できている。けれど、その変化が一時的なものなのか、構造的なものなのかは分からない。
正しい数字は、必ずしも問いを生むわけではありません。そして、問いを生まない数字は、判断につながりにくいのです。
経営にとって大事なのは、「この数字から何を考えるか」「この数字を見て何を変えるか」という部分です。正しさは土台であって、ゴールではありません。正しい数字のうえに、“考えやすさ”や“使いやすさ”が重なったとき、初めて経営にとって意味のある情報になります。
数字を「確認」から「経営判断の材料」に変える
では、どうすれば数字を「確認」から「経営判断の材料」に変えられるのでしょうか。
そのヒントは、数字に問いを載せることにあります。
たとえば、「売上が前年より5%伸びた」という事実を、ただ確認して終わらせないことです。
「この5%は、どこから生まれたのか」「再現性はあるのか」「意図した結果なのか、偶然なのか」といった問いを置いてみます。
「人件費が増えた」という数字についても、「良い」「悪い」で評価して終わるのではなく、「この増加は、どんな価値につながっているのか」「来年も同じペースで増えてよいのか」と問い直してみます。
こうして見ていくと、数字は答えそのものではなく、問いの入り口になります。
数字があるから決められるのではなく、数字があるから考えられる。そういう位置づけに変わります。確認は過去を整える行為ですが、材料は未来をつくる行為です。
数字を材料として扱えるようになると、経営の会話は「説明」から「相談」に変わります。「なぜこうなったのか」ではなく、「これからどうするか」という方向へ、自然に議論が進むようになります。
数字との向き合い方を少しだけ変えてみる
ここまでの話は、「大きな仕組みを変えましょう」という提案ではありません。会計制度を変える必要もありませんし、フォーマットを変える必要もありません。
大事なのは、数字を見るときの立ち位置を、ほんの少しだけ変えることです。
「合っているか」から「どう使うか」へ。「正しいか」から「役に立つか」へ。
その視点のずらし方だけで、同じ数字の意味が変わります。数字は経営を縛るものではなく、経営を自由にするための材料です。材料としての数字であれば、完璧でなくても使えます。むしろ、未完成な数字のほうが、考える余地を残してくれることすらあります。
数字を眺めて終わるのではなく、数字をきっかけに会話を始める。そんな関係性ができてくると、数字は「重たいもの」ではなく、「頼れるもの」に変わっていきます。正しい数字のその先に、使える数字があります。そのあいだにある一歩を、今年は少しだけ意識してみる。そんなスタートとして、このテーマをお届けしました。

1998年3月山口大学経済学部卒業。学校法人大原簿記法律専門学校入社。簿記・税理士講座の講師を務めた後、2003年行本会計事務所に入所。2017年株式会社YKプランニング代表取締役社長就任。ミッションである「独りぼっち経営者を0に」実現のために日々奮闘中。
趣味は長距離運転、スキンダイビング(素潜り)、GoogleMAPを見ること。

