財務分析‐資金力編‐お金は会社の血液
こんにちは。YKプランニング代表取締役社長の岡本です。
全4回シリーズでお届けしている財務分析の第3回目は人間にとっても会社にとっても最も重要な「心臓=資金力」についての指標を解説していきたいと思います。心臓は24時間365日休むことなく働いています。
下図のように血液は一定の仕組みで流れており、さらにはその血液を運ぶための血管たちもそれぞれ重要な役割を果たしています。どこか1か所でも正常に動いていなければ困った事態を引き起こしてしまいます。そうならないためにも、日頃から意識して生活することが大切なことは皆さん理解されていると思います。
では会社のお金の流れについてはどうでしょうか?
一見、会社のお金はランダムに出たり入ったりしているように思われがちですが、実はちゃんと一定の法則があります。
運転資金とは?
例えば「運転資金」という言葉を耳にしたことがあると思います。これにはちゃんとした定義があって、
運転資金=売掛金+棚卸資産-買掛金
の公式で示すことができます。
具体的に説明していきます。
1,000万円分の商品を掛けで購入し、代金は30日後に支払う約束としました。
一方でこの商品を購入した10日後に1,500万円で掛け販売したので、儲けは500万円です。代金は販売した日の50日後に受け取る約束としました。
図にすると以下のようになります。儲けである500万円は、掛けで販売した時に利益として計上されているにも関わらず、お金は商品代金支払い後30日経過してやっと手元に入ってきます。
このタイムラグのことを「運転資金」と呼んでいます。ちなみに、1,000万円の掛け支払いを60日にすると、運転資金は不要ということになりますね。
これは、血液の流れと同じで、お金の流れる量、スピード、拍数、濃度のバランスが壊れ、血管のどこかに負担がかかって破裂してしまう状況とよく似ています。突然倒れないように定期的な検査を受けましょう。
それでは具体的に会社のお金にまつわる財務分析指標について見ていきましょう。
生み出されたお金を知る「簡易キャッシュフロー額」
上記に述べたように「運転資金」が理解できると、“利益”と“キャッシュ”の違いも理解できるようになりますが、それよりももっと「簡易」に暗算レベルでできるポイントをお教えします。
それは「減価償却費」の意味を理解することです。
「減価償却費」とは、長期に所有する建物や機械装置、車や備品などの金額を数年間にわたって経費処理していく作業なのですが、この「減価償却費」は代金の支払いとは全く無関係に計上されます。専門的な表現をすると「非現金支出費用」と呼ばれています。
ところがこの「減価償却費」は、お金が出ていかない費用なのに損益計算書上では利益から差し引かれているので、結果として利益とキャッシュにズレを生んでしまうという一番の原因を作り出しています。
利益にこの「減価償却費」を足し直すと、利益とキャッシュが近い金額に戻されます。この「〇〇利益+減価償却費」を簡易キャッシュフロー額と呼んでいます。簡易キャッシュフロー額とは、1年間で生み出したお金がどのくらいかを示しています。
なお、この計算で使用する〇〇利益は、状況に応じて「営業利益」「経常利益」「税引前当期純利益」「税引後当期純利益」を使い分けます。
個人的には、「会社がお金を生み出す力」を判断する場合には「税引後当期純利益」を使うことが多いですね。
[計算式] 簡易キャッシュフロー額 = 税引後当期純利益 + 減価償却費
例えば、決算書(損益計算書)に減価償却費 500万円、税引後当期純利益 1,500万円と記載されていたとすると、500万+1,500万=簡易キャッシュフロー額2,000万円ということになります。これは1年間で生み出したお金が、ざっと2,000万円だということです。
この額が多いかどうかは、まさに血液の量と同じで、体の大きさ、性別、年齢、生活スタイルによって異なります。その体に合った“適正な量”を判断するには、前年及び前々年の簡易キャッシュフロー額と比較してその増減を把握してみましょう。
この指標は次に説明する指標とセットで活用します。
借金の返済スピードを知る「簡易債務償還年数」
次の指標も頭に“簡易”という言葉がついています。これは簡易キャッシュフロー額を使用した結果なので“簡易”という言葉がついていると理解してください。
先ほど、簡易キャッシュフロー額が2,000万円の会社を例に挙げました。
この会社の長期借入金残高が1億円あったとしましょう。そうするとこの1億円は何年で返済できるか?という指標がこの「債務償還年数」です。
長期借入金残高 1億円÷簡易キャッシュフロー額 2,000万円=簡易債務償還年数 5年
直近の決算書の情報から推定すると「この会社は5年後に無借金経営になる」という判断ができます。
ちなみにこの債務償還年数の一般的な目安は5年です。それよりも短い場合はあまり気にする必要はありませんが、もし長くなる結果が出た場合にはその原因をはっきりさせましょう。
新規事業展開のための設備投資資金調達や本社ビルの建て替えで超長期にわたる借入をしたりなどの原因が判明していれば別ですが、運転資金名目で借りた借入金明細上の返済期間とこの償還年数にギャップがある場合は要注意です。
自分で生み出すキャッシュフローが借入金の元金返済に追い付いていない場合は、まもなく資金繰りが厳しくなります。
まとめ
毎期定期的に健康診断を受けて現在の血液の状態を正しく理解していれば、突然脳内の毛細血管が破裂して意識を失うケースはそう多くはないと思います。
会社にとってのお金の流れも同じです。
手遅れになる前にお金の流れを把握して気になるところがあれば、会計事務所や銀行へ早めに相談しましょう。