貸借対照表の目的を理解すれば、経営判断が変わる
こんにちは、YKプランニング代表取締役の岡本です。
中小企業の経営者にとって、貸借対照表ほど“本当の価値が見過ごされている資料”はありません。損益計算書は毎月の振り返りによく使われますが、貸借対照表となると「決算のときに税理士さんから説明されるもの」という扱いになってしまうことが多いのが現状です。数字が並んでいて難しそうに見えるため、どうしても距離ができてしまうのだと思います。
しかし実際には、社長が日々判断していることの多くは、貸借対照表の理解と深く結びついています。たとえば、投資、人材採用、借入・返済、在庫戦略、資金繰り、金融機関との付き合い方などがその一例です。これらの意思決定の質を高める“土台”が、実は貸借対照表なのです。
私はこれまで多くの経営者の方とお話ししてきましたが、貸借対照表を「未来をつくるための道具」として使えるようになった瞬間、経営が大きく変わる場面を何度も見てきました。
今回は、貸借対照表を“過去の記録”ではなく、「未来の経営判断にどう活かすか」という視点で整理し直してお伝えしたいと思います。この記事を通じて、貸借対照表が少しでも身近に感じられたら嬉しいです。
貸借対照表(BS)の目的と役割とは?
損益計算書(PL)が“1年間の成績表”だとすれば、貸借対照表(BS)は“会社の現在地を写した写真”です。ここには、社長がこれまでにおこなってきた意思決定が、そのまま積み重なっています。
たとえば、設備投資をしたこと、人材を採用したこと、在庫を積み増したこと、借入の増減や不採算事業からの撤退、そして売上の増減など、日々の意思決定が貸借対照表の科目として形に残ります。
さらに貸借対照表の最大の魅力は、未来の変化の予兆を事前に察知できることです。
売掛金や在庫、借入、固定資産の状況などをチェックするだけで、次のようなリスクや変化を早く捉えられます。
・売掛金が増えすぎている → 数ヶ月後に資金繰りが苦しくなる可能性
・在庫が増えている → 粗利率やキャッシュに影響するかもしれない
・借入が短期に偏っている → 近い将来の返済負担が急増するリスク
・固定資産の割合が高すぎる → 売上減時の立て直しが難しくなる懸念
このように貸借対照表を読み解くことで、“近い未来に何が起こりそうか”を事前に察知できるようになります。経営とは常に未来の選択の連続です。その選択の精度を高めるための最強ツールが貸借対照表なのです。
数字ではなく「お金の流れ」を読む視点
財務指標は便利な道具ですが、数字だけにとらわれると危険な場面もあります。
たとえば、固定長期適合率は「低いほど良い」と言われますが、実務では数字だけでは実態が見えないことがあります。
固定負債が70、自己資本30、固定資産50の場合、固定長期適合率は50%で一見“優秀”に見えます。ところが、実際には固定負債の多くが、本来固定資産に使うべきところを運転資金に回していたり、長期資金が短期資金の穴埋めに使われていたり、手元資金が薄く、日々の運転に余裕がない状況が生じることがあります。つまり、財務指標上は“良い”ように見えても、実態は危険な状態です。
このように、指標はあくまで入口にすぎず、本当に見るべきは「お金がどこに流れているか」です。
在庫が積み上がった理由や、借入を増やした背景、現預金の動きが止まった原因、利益がどこで止まっているかなど、貸借対照表を通してお金の流れの“理由”を読み解くことが重要です。
貸借対照表は、お金の流れの“理由書”であり、数字の裏に隠れたストーリーを理解して初めて経営判断に活かせます。
貸借対照表に現れる“意思決定のクセ”
貸借対照表をよく見ると、社長の経営スタイルや意思決定のクセが浮かび上がります。
設備投資を積極的におこなう社長もいれば、借入を極端に避ける方や、在庫を厚めに持つ方針の社長もいます。また、売掛金の管理が甘い場合や、固定費を増やして売上の波を吸収しようとするケースもあります。こうした意思決定の傾向は、すべて貸借対照表に形として残るのです。
金融機関が貸借対照表で注目しているのは、単に数字の良し悪しだけではありません。彼らが見るのは、この会社の社長が意思決定に一貫性を持っているか、その意思決定が事業の成長と整合しているか、という点です。
たとえ数字が一時的に悪くても、「なぜその判断をしたのか」「どう立て直すのか」が明確であれば、銀行評価は高くなります。
つまり、貸借対照表は社長自身が自分の意思決定を振り返り、“クセ”を知り、必要に応じてアップデートするための鏡でもあるのです。
貸借対照表予算を作成する意味と効果
中小企業で圧倒的に少ない習慣があります。それは “未来の貸借対照表をつくる”文化です。未来のPL(損益シミュレーション)は作っても、未来のBS(バランスシート)まで描く会社は多くありません。しかし本来、投資判断や資金繰り改善、銀行との付き合いはすべて未来の貸借対照表に影響します。
たとえば、設備投資をすれば減価償却がどう動くか、在庫を減らせば手元資金がどれだけ増えるか、売掛金の回収サイトを短縮すれば運転資金がどう変わるか、新規借入をすれば負債構造がどう変化するか、採用をおこなえば固定費と生産性にどのような影響が出るか、といった具合です。
言い換えれば、“経営の地図作り”そのものです。未来の貸借対照表が描けるようになると、意思決定は圧倒的に速く、正確になります。逆に未来の構造をイメージできなければ、判断基準がぶれてしまいます。貸借対照表とは、会社の未来をあらかじめ形にしておく設計図なのです。
貸借対照表の目的を理解すれば、経営判断が変わる
単に貸借対照表を見るだけでは、経営の武器にはなりません。価値を生むのは、数字の背景を読み解き、お金の流れを把握し、未来の姿を描きながら判断の一貫性を確認し、変化の兆しをつかみ、銀行の視点で自社を見直す、そんなサイクルを回せるときです。
これができるようになると、投資判断に軸ができ、事業の伸びしろが見え、資金繰りの不安が減り、銀行との対話もスムーズになり、経営のスピードも上がります。貸借対照表は、“会社の過去”ではなく、“未来を変える道具”なのです。
貸借対照表を理解する目的は、単に決算書を読むためではありません。
会社の未来を自らつくっていくためです。今後も貸借対照表を中心に“未来をデザインするための会計”をお伝えしていきたいと思います。数字を読む力は経営を強くし、数字を使う力は未来を強くします。
ぜひ一緒に、数字で未来を変える会社をつくっていきましょう。

1998年3月山口大学経済学部卒業。学校法人大原簿記法律専門学校入社。簿記・税理士講座の講師を務めた後、2003年行本会計事務所に入所。2017年株式会社YKプランニング代表取締役社長就任。ミッションである「独りぼっち経営者を0に」実現のために日々奮闘中。
趣味は長距離運転、スキンダイビング(素潜り)、GoogleMAPを見ること。

