外的要因による対前年比減の当期売上。
売上を積み増す戦略を練る
有限会社まるみや ✕ bixider 岡憲一郎税理士
20220706有限会社まるみや
大分と香川の遠距離を結ぶオンライン上で、すでに3回の定例ミーティングを終えている有限会社まるみや ✕  bixider(以下ビサイダー)岡憲一郎税理士の「bixider経営支援プロジェクト」。
回を重ねるごとに、財務上の数字が示すさまざまな課題が顕在化したことで、新たな施策や新商品の開発に意欲的に取り組むまるみやの原田政直社長は、当期に向けた意欲を次のように語ります。
有限会社まるみや 原田社長
原田社長
コロナ禍や材料費高騰など外的要因が厳しい状況が依然として続いているため、できうる限りの施策を打ち、売上を積み増していきたい
4回目の今回は、経営環境がより厳しさを増し、重い舵取りを求められる原田社長の経営セカンドオピニオンであるビサイダー岡氏の提案により、以下の3つのTASKに則って、前期実績をもとに見込概数を立て、当期の売上計画を策定することになりました。
〈TASK1〉「弁当」「惣菜」「寿司」のカテゴリー別に、当期の販売個数を見通す
〈TASK2〉当期の販売個数から、さらに売上見込額を見通す
〈TASK3〉当期売上を“前期比プラス”に転じさせるための戦略&売上計画を策定
果たして、どのような販売個数や売上見込額が提示され、それに伴い、どのような施策、戦略が立案されたのでしょうか。その模様をリポートします。

コロナ禍の第6波襲来により、販売個数は鈍化

ミーティング冒頭でビサイダーがPC画面上に共有したのは、「本店」の主力商品「弁当」「寿司」「惣菜」の月別の販売個数(前期/2020年11月〜2021年10月)の数値が入力された下表になります。
20220706有限会社まるみや
まずは、表の上位に示された「弁当」の項目を見ていきましょう。
●「弁当」の上段「前期」= 2020年11月〜2021年10月の実績値はすべて入力済み
●「弁当」の下段「当期」= 2021年11・12月分のみ実績値を入力
  1月以降は実績が出ていないためブランク(空欄)状態
岡憲一郎税理士事務所
岡憲一郎税理士事務所(以下 ビサイダー)
ご用意いただいた資料をもとに、当期11月と12月の数字を私のほうで入力しましたが以下のようになっています
●前期11月/弁当の販売個数「5011個」 → 当期11月/弁当の販売個数「4517個」
●前期12月/弁当の販売個数「5409個」  →  当期12月/弁当の販売個数「4809個」
岡憲一郎税理士事務所
ビサイダー
いずれも約10%減で推移していますが、思い当たる要因はありますか?
有限会社まるみや 原田社長
原田社長
2021年11月に入ってコロナが少し落ち着き、繁華街や百貨店への客足が戻った感触をつかんでいたのですが、人混みを警戒されるお客様も依然として多く、そうした要因から当期11・12月の販売個数が伸び悩んだと分析しています
さらに原田社長は1・2月の見通しについても、厳しい表情で言葉を継ぎます。
有限会社まるみや 原田社長
原田社長
どのご家庭も年末年始に出費が嵩みますので、1〜2月は支出を抑える傾向にあります。さらに残念なことに、年明けすぐに第6波が急激に拡大したことで、大分県も1月後半から2月中旬まで〈まん延防止等重点措置〉が適用されました。そのため客足は鈍化し、販売個数が減少すると予測しています。さらに、イベントや人が集まる機会が減少することで、3月のイベントシーズンも数字的に厳しくなると見込んでいます

当期の販売個数の概数を見通すことで、打つべき施策が明確に

岡憲一郎税理士事務所
ビサイダー
では早速、原田社長と一緒に月や時期を考慮しながら、当期の販売個数の概数を見通していきましょう
ここから本店 の「弁当」「寿司」「惣菜」 の表を画面で共有しながら、1〜10月の当期販売個数の空欄に見込数を入力する作業がスタート。20分ほど続いた作業の間に、長年にわたる経営者の勘や過去の実績に基づき、原田社長はビサイダーにさまざまな売上構成要因を伝え、次々と空欄が数字で埋められていきます。
有限会社まるみや 原田社長
原田社長
世の中の動きと販売個数は密接に連動していまして、例えば年の瀬の12月、お花見、引越し、異動、卒業・入学シーズンの3月、大型連休がある5月、行楽シーズンの10・11月は、いずれも販売個数が4000個を超えています。こうした要因から当期の同月は見込数を少し多めに設定して問題ないと思います
岡憲一郎税理士事務所
ビサイダー
前期1〜10月の実績値を見ると、3月が4562個で最も多くなっていますが、3月は個数に限らず、ほかの弁当より価格帯が高いイベント用の弁当が多く売れているという認識でよいですか?
有限会社まるみや 原田社長
原田社長
はい。看板商品の〈幕の内〉と比較して、イベント用の時季商品は単価を少し高めに設定しています。ただ例年は花見用弁当などを3月から店頭に並べていたのですが、当期はコロナの影響を想定し、販売時期を前倒しすることがすでに決まっています
岡憲一郎税理士事務所
ビサイダー
どれくらい前倒しするのですか?
有限会社まるみや 原田社長
原田社長
3月の花見用弁当を2月から宣伝を兼ねて商品棚に並べ、3月のシーズン到来時に1個でも多く、単価の高い弁当の販売数を伸ばしたいと考えています
岡憲一郎税理士事務所
ビサイダー
なるほど。クリスマスやバレンタイン商戦が1カ月前から始まるのと同じ仕掛けで個数を積み増していくのですね
有限会社まるみや 原田社長
原田社長
ただ、昨年(2021)のコロナ禍の第5波がピークを迎えた8月に、弊社の店舗が入る百貨店が半月休業したことがありました。そのため8月の販売個数が大幅に減少しているのですが、当期はそれらの要因を踏まえながら、できうることは何でもして売上につなげていきたいと思っています

概数を把握することで浮かび上がってきた、当期の“売上像”

前章のようなやりとりを経て、空欄だった当期見込販売個数はすべて入力が完了。
そして、前期と当期を比較した「弁当」の販売個数の合計見込数は以下の結果に。
●前期 実績値 → 4万9318個
●当期 見込数 → 4万6326個
20220706有限会社まるみや
有限会社まるみや 原田社長
原田社長
やはり当期の見込販売個数は10%弱減になりましたか。想像通りの結果ですね
岡憲一郎税理士事務所
ビサイダー
これはあくまで概数ですが、早めに見込みを立てることで、どんな施策を打てば有効か…といった手立てが見えてきます。例えば、販売個数だけを見ると対前年比で数字は減少しているのですが、ここで目線を変えることも必要です
有限会社まるみや 原田社長
原田社長
どのように目線を変えるのですか?
岡憲一郎税理士事務所
ビサイダー
前回のミーティングで弁当類の販売個数の多いランキング(下表)を見ましたが、人気が定着している看板商品の〈幕の内(竹)〉や、単価はやや高めですが人気の高い〈巻おにぎり弁当〉をより多く販売する施策を強化すれば、全体の販売個数は減っても、逆に売上を伸ばすことが可能になります
有限会社まるみや 原田社長
原田社長
単価の高い看板商品への販売強化と並行して、客単価が上がる時季商品を戦略的に投入する仕掛けを作って、売上を積み増していくという考え方ですね?
岡憲一郎税理士事務所
ビサイダー
その通りです。おそらく原田社長には〈この時期に◯◯の店舗にどんな商品を持っていけば買っていただける〉といった長年の勘があると思うのです。それをもとに販売個数を伸ばす施策を打つことで、売上を戦略的に作っていくことができます。ただし、商品配置スペースが限られている店舗では、〈推しの商品〉を目につく場所に配置する半面、どの商品を棚から外すかといったバランスの調整も必要になります

原材料費高騰や人件費上昇の一方、売上見込は対前期比8%ダウン

ここまでは本店の販売個数を主に見てきましたが、当期の「弁当」「寿司」「惣菜」 の月別販売個数が出揃ったことで別表に自動計算された「本店の年間売上高」を確認したところ、概数ながらも対前期比8%ダウンという結果に…。
有限会社まるみや 原田社長
原田社長
第2回のミーティングで原価を抑えて利益を積み増していく重要性を共有しましたので、当期は原価を抑えながら1円単位で販売単価を上げることを視野に入れていました。そうした取り組みによって8%ダウンを補うことも可能ということですね?
岡憲一郎税理士事務所
ビサイダー
おっしゃる通りです。〈原価を抑える + 効果的に販売個数を伸ばす〉ための仕掛けを同時並行で行えば、結果として売上が積み増され、プラスに転じることも可能です
有限会社まるみや 原田社長
原田社長
どのような施策を打てば売上が積み増されていくかが明確になってきた一方、原材料費の高騰や人件費上昇などの外的要因が厳しさを増すいま、弊社が掲げる〈お客様によりよい商品を、より安く〉のポリシーを貫くことが厳しくなってきているのも事実です…
創業以来90年にわたって大分地産の食材を使い、大分のお客様に対面販売で商品を届けてきたまるみやは、原価を抑え、むだを節約しながら、値上げに慎重な姿勢を貫いてきました。だからこそ原田社長には、安易に価格転化をせず、新たな取り組みによって原材料費高騰、人件費上昇を乗りきりたいという思いが強くあるといえます。
有限会社まるみや 原田社長
原田社長
値上げはお客様からダイレクトな反応がある分、非常に慎重にならざるを得ません。といっても、赤字で商品をご提供するには限界がありますので、今後は商品にどのような付加価値をつけ、そこからどう価格を設定するのかを根本から考えていく必要があると思っています
岡憲一郎税理士事務所
ビサイダー
今回、原田社長と一緒に行った売上の概数把握は〈早期に売上計画を策定できる〉〈策定に伴い、目標数字が明確化する〉〈目標達成に向けた戦略を早期に立てられる〉といったメリットのほか、〈厳しさを増す経営環境に打ち勝つ施策を早期に立てられる〉といった点も挙げられます

数字を見る目が変わり、経営的視点は大分から全国へ!

ビサイダーのアドバイスに何度もうなずく原田社長ですが、実は、外部のECのプロフェッショナルとの顧問契約がすでに済んでいて、大手ECサイトでの販売にチャレンジすることがほぼ決まっていると、笑顔で打ち明けます。
有限会社まるみや 原田社長
原田社長
外的環境が厳しく、店舗商品の施策と並行して、何か新しい取り組みを始めなくてはならないとずっと考えていたのですが、弁当や惣菜等のデリバリーは注文に即応した製造が難しいため、最近話題の鮮度を高品質で保てるマイナス70度の瞬間冷凍機を導入し、注文に応じて即時発送できる環境作りの準備を進めている最中なんです
対面販売を主としてきたまるみやにとって、ECサイトへの参入は“初”の取り組みであるため、プロの助言に基づき、目下、着々と準備が進められているそう。
有限会社まるみや 原田社長
原田社長
早い時期に、瞬間冷凍機でおいしさを密封した、できたてホヤホヤの商品をお客様のもとにお届けしたいと考えています。私自身もその日を心待ちにしているんですよ(笑)
—— 未知の領域だったECサイトにも意欲的にチャレンジする原田社長は、「回を重ねるごとに、自分なりに真剣に数字に向き合っているつもりだったが、実は向き合えていなかったことに気づかされた」と語り、その経営的視点は大分から日本全国へと広がっているようです。
原田社長が次にどのような飛躍を遂げるのか、その模様は次回のリポートにて! お楽しみに。

今回のPOINT!

・正確な販売数を知ることで、見えてきた今期の着地点
・経営にダイレクトに影響する価格改定も経営数値を知りながら慎重に
・経営数値を知ることで己と向き合い、新しい成長戦略を実施していく原動力に
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多くの経営者は日々の販売状況や月単位での製造数量・販売数量など、売上に関する結果をある程度正確に把握する仕組みを持たれています。ただ、それが結果を知るだけのものにしか使えていないケースが多いのも事実です。今回のミーティングでは、前期と今期の販売数量を月単位で並べて見ることで、原田社長の頭の中にある「今期残り10カ月の販売イメージ」が見える化できました。近い将来この数値を社員の方々と共有できるようなミーティングにすることが社長の次の目標です。
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有限会社まるみや
大口ユーザーをもつ地域密着優良企業として、「食」を通した幅広い事業を展開。自社製造工場を持つ利点を生かし、老舗ながらも、新規サービスなどの事業拡大に意欲的に努めている。
代表取締役:原田 政直
本社所在地:大分県大分市
創業:1931年5月(昭和6年)
従業員数:約50人(本社・スーパー・工場)
事業内容:仕出し、弁当・惣菜製造・小売