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老舗はなぜ変われるのか?中川政七商店に学ぶ経営の本質

2026年 4月30日
経営管理 人材育成

「蚊帳織りふきん」をはじめ、日本の工芸品を現代の暮らしへと届けてきた中川政七商店。1716年創業、2016年に300周年を迎えた奈良の老舗企業です。

老舗企業というと、「変化が難しい」「意思決定が遅い」といったイメージを持たれがちですが、中川政七商店はその真逆を行く存在です。
創業300年を超えた今も、経営と組織のあり方を更新し続けています。
今回は、老舗でありながら変化を続ける同社の取り組みを手がかりに、企業が“変わり続ける”とはどういうことなのかを考えていきます。


中川政七商店の社長交代が注目された理由

中川政七商店のはじまりは、享保元年(1716年)にまでさかのぼります。奈良晒(ならざらし)づくりが最盛期を迎えていた時代、初代・中屋喜兵衛がその商いを始めたことが、現在につながる出発点となりました。
以来300年にわたり、手績み・手織りによる奈良晒という伝統を受け継いできた同社。

しかし、私たちがよく目にする「ブランドとしての中川政七商店」は、実は2010年に生まれた比較的新しい存在でもあります。
長い歴史を持ちながらも、時代に合わせてかたちを変えてきた企業、そう捉えることもできるかもしれません。
そうした中で注目を集めたのが、2018年の社長交代でした。

創業家以外から初めて社長が就任したという点で、多くの関心を集める出来事となります。
新たに社長に就任したのは、社長秘書や商品企画課長、「遊 中川」のブランドマネージャーなどを歴任してきた千石あや氏です。
もともと「自分は経営者タイプではない」と一度はオファーを断ったという千石氏。
それでもなお、社長就任に至った背景にはどのような考えや変化があったのでしょうか。


トップダウンからチームへ、経営転換の背景

2008年に社長に就任した13代目の中川淳氏は、「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを掲げ、経営のかじ取りをおこなってきました。
卸売に頼らず、自社で企画・販売までを担うSPA業態(卸売りをせず、自社製品を自前の小売店で販売するスタイル)へと舵を切り、2010年には「中川政七商店」というブランドを立ち上げます。

その結果、2008年以降、売上は大きく成長し、10倍規模へと拡大しました。
この急成長を支えてきたのは、中川氏の強いリーダーシップによるトップダウン型の経営だったといえるでしょう。一人の意思決定が組織を引っ張り、スピード感をもって変革を進めていく、そうした局面だったのかもしれません。
一方で、成長の只中にあった2017年、中川氏は新たな動きを見せます。

「日本の工芸を元気にする!」というビジョンをさらに広げるため、日本工芸産地協会の立ち上げを決断しました。
同時に、中川政七商店としては「奈良に注力する」という方針も打ち出されます。
こうした動きの中でおこなわれたのが、経営体制の転換でした。

千石氏の社長就任をきっかけに、「工芸は中川」「奈良は千石」と役割を分け、それぞれが責任を持つ体制へと移行していきます。
トップダウンで一人が牽引する形から、複数の人材が力を発揮する形へ。
言い換えれば、組織としての力を引き出すフェーズに入った、とも捉えられるかもしれません。
それは、一人の強さに頼るのではなく、個々の力を高め、その掛け合わせで成長していくための選択だったのではないでしょうか。


変化を支える「ぶれないビジョン」

一度は社長就任の打診を断ったという千石あや氏。
最終的にそのオファーを受けるに至った背景には、いくつかの要素があったといいます。

ひとつは、求められていた社長像が「前社長のコピー」ではなかったこと。
もうひとつが、同社に「ぶれないビジョン」が存在していたことでした。
そのビジョンとは、前社長である中川淳氏が掲げた「日本の工芸を元気にする!」という言葉です。
この考えに共鳴しているのは、経営陣だけではありません。
中川政七商店で働く多くのスタッフが、このビジョンを共有しているからこそ、日々のものづくりに向き合う姿勢にも一体感が生まれている、そのように捉えることもできそうです。
「ぶれないビジョン」があると、何が起きるのか。
経営者が変わっても、組織として大切にする軸は揺らがない。
一方で、その軸があるからこそ、それ以外の部分については変化を受け入れやすくなる。
変わらないものと、変えていくもの。
その線引きが、自然と共有されていくのかもしれません。

こうした土台があったからこそ、千石氏は社長就任を受け入れ、また組織としても創業家以外からの新たなリーダーを受け入れることができた、そう考えることもできるのではないでしょうか。


伝統を更新し続けるという選択

中川政七商店は近年、事業の成長と並行して、「企業のあり方」そのものを問い直す取り組みも進めています。

2025年には、社会や環境に配慮した公益性の高い企業に対する国際認証であるB Corpを取得。利益だけでなく、産地や地域社会、従業員といったステークホルダーを重視する姿勢が、第三者の基準においても評価された形となりました。

さらに2026年からは、使用されなくなった自社商品を回収、修復、再流通させ、その利益の一部を作り手や原材料に還元する循環プログラムを開始しています。
「工芸のしまいかた」を考えるこの取り組みは、つくることに価値を置いてきた工芸の世界に、「どう終わらせ、どう次につなぐか」という新たな視点を加えるものともいえそうです。

伝統を守るだけでなく、現代社会の課題と向き合いながら、そのあり方自体を更新していく。
そうした姿勢は、老舗企業のひとつの在り方として、これからのヒントになる部分もあるのではないでしょうか。


変わるために、変わらないものを持つ

何百年と続く老舗が、新たな経営者を創業家以外から迎えたり、これまでとは異なるやり方を取り入れたりすることは、決して簡単ではないように感じられます。

一方で、中川政七商店の事例からは、少し違った見方もできそうです。
企業の規模や歴史の長さに関わらず、「ぶれないビジョン」が共有されていれば、そこに向かう手段として新しい選択肢を取り入れることも、自然な流れとして受け入れられる。そんな可能性が示されているのかもしれません。

「何を変えて、何を変えないのか」。
その判断の軸となるものが、組織の中にあるかどうか、それによって変化への向き合い方も少しずつ変わってくるのではないでしょうか。
すぐに何かを大きく変える必要はないのかもしれません。ただ、自社にとっての“ぶれないもの”は何か、改めて考えてみることから、見えてくるものもあるのではないでしょうか。

株式会社YKプランニング
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