中小企業における人的資本経営の重要性とは?
こんにちは、YKプランニング管理本部長であり公認会計士の丸山です。
中小企業経営者のみなさま、社内の「人材育成」にどれだけ力を注いでいますか?
「企業経営」と「人材育成」に関連するキーワードに「人的資本経営」というものがあります。
「人的資本経営」とは、従業員などの人材を重要な「資本」と捉えて積極的に投資をおこない、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営スタイルのことです。
経営者の中には、「人的資本経営」は、上場企業のような大企業だけに関係のあることだと思っている方が多いかもしれません。また、必要だと感じていても、目先の売上確保で精一杯になり、従業員の育成に時間と費用をかける余裕がない経営者もいらっしゃるでしょう。
しかし、「人的資本経営」は、企業規模、業種に関わらず、すべての企業が優先的に取り組むべき経営手法だと感じます。特に中小企業では、大企業と比べて従業員数が少ないため、従業員1人のパフォーマンスが会社全体に与える影響が大きいものです。
そこで今回は、人材育成に絞り、中小企業における人的資本経営の重要性と、どのように人材育成をすべきか、について解説します。
中小企業になぜ人的資本経営が必要なのか?
経済産業省では、「人的資本経営」は“人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方”と定義しています。
(リンク:人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~ (METI/経済産業省))
そもそも企業価値とはなんでしょうか?
単純に説明すると、「企業の持つ価値をお金に換算した評価額」のことで、
①貸借対照表上に計上されている価値
②貸借対照表上に計上されない無形資産(ブランド、人材、知的財産など)の価値
を合計したものと言えます。
①貸借対照表に計上されている価値は、実際に数字で計上されていますので可視化することができます。これは、企業がこれまで積み上げてきた過去の成果としての資産価値であるとともに、企業経営における人の意思決定と行動の結果によってもたらされた価値です。
一方、②貸借対照表上に計上されない無形資産の価値については、目に見えない価値であり、ブランド、知的財産、営業ノウハウ、企業文化、生産体制など企業競争力の源泉になるものです。これも突き詰めて考えれば、すべて人の知恵や努力によって生み出されたものです。
つまり、企業経営は結局のところ、“人が成長するから、ビジネスが成長する”と表現できるとも言えます。そのため、人に投資して能力を磨き上げることが、会社に持続的な利益をもたらすものと捉え、人にかかる費用はより大きな成果を生むための資本であって、投資すべき対象だと考えるのです。
中小企業はどのように人材育成をすべきか?
中小企業においてどのような人材育成の対策が考えられるでしょうか?
中小企業では、できるだけ低予算で、従業員にとって心理的ハードルが低い対策を心掛けるべきでしょう。
なぜなら、人材育成の効果は短期的に現れるものではなく、中長期(3年~5年)に効果が現れるからです。投資金額が大きかったり、従業員の心理的ハードルが高い人材育成プログラムでは途中で諦めてしまい長続きしません。とにかくコツコツと続けることが非常に重要です。
以下、中小企業で取り組んでもらいたい対策を4つ紹介します。
①オンライン学習サービス
最も取り組みやすい対策はオンライン学習サービスの活用です。最近ではリーズナブルな価格のサービスが数多く存在します。インターネット環境さえあれば、従業員の都合で学習することができ、ビジネスパーソンに必要な基礎から応用まで幅広いトピックとコースが用意されています。すべての学習コンテンツを社内の従業員が準備することは効率が悪いため、ぜひ活用したい対策の一つです。
例えば、従業員に月に1回の学習コンテンツ受講をルール化するだけで年間12回、さらに5年で60回の学習機会を提供できることになります。コツコツと続けることができれば、中長期的に現場のパフォーマンス向上につながります。
②内部研修・勉強会の定期的な開催
業界特有の知識、専門的な技能、自社商品・サービスの知識は、内部研修や勉強会の場を提供しましょう。このような知識は、オンライン学習サービスで対応できないことがほとんどです。経験豊富な従業員が他のメンバーにノウハウを教えることで、コストを抑えつつ効果的なスキル向上が可能です。
例えば、週1回決まった時間に研修・勉強会を設けることもいいでしょうし、朝礼・終礼で短時間の勉強会をすることも可能です。会社として日常的に知識・スキルを従業員に提供できる環境を整え、学習習慣が身に付けば、中長期的に従業員のパフォーマンス向上が期待できるでしょう。
③週次の参加型ミーティングの導入
オンライン学習サービスや内部研修・勉強会は、インプットに偏りがちです。人材育成にとってアウトプットの場を提供することは極めて重要でしょう。
例えば、週1回の定期チームミーティングを実施し、従業員同士がアイデアや改善案などを主体的に発信できる場を提供します。これが起点となり、予想もしない新たな取り組みが生まれ、成功体験を積み上げることで従業員の自信につながり、中長期的に会社を支える強靭な人材が育ちます。
④フィードバックの文化の醸成
フィードバック文化を根付かせることは、従業員の成長を促進します。これは、経営者や上司から従業員の業務や行動を評価し、改善点を示すことで仕事でのパフォーマンスを向上させることが目的です。定期的な面談もいいですが、できるだけ気づきがある都度フィードバックをおこない、従業員が自身の強みや改善点を把握し、継続的な学習と成長を実現できるようにサポートしましょう。その際には、良いフィードバックを積極的におこなうことがポイントです。悪いことばかり指摘されては、フィードバックを受ける側にとって息が詰まります。良いフィードバックは、モチベーションを保つために重要な秘訣です。
中小企業こそ人材育成に投資をしよう
人的資本経営を構成する要素はいくつも存在しますが、今回は「人材育成」の視点で紹介してきました。
リソース不足が顕在化している中小企業において、意を決して「人材育成」の投資をおこなうことは簡単ではないでしょう。また、「人材育成」の成果は即効性がなく、中長期の取り組みをおこなってようやく将来的に成果が現れることが多いため、習慣化が難しいことも事実です。
しかし、企業経営をおこなううえで、“人が成長するから、ビジネスが成長する”ということは間違いありません。「人材育成」の投資を怠れば、結果的に持続的な企業経営は難しいでしょう。
難しいことからスタートする必要はありません。身近にある低予算でハードルの低い「人材育成」対策から始めてみませんか?
大学卒業後、金融機関のリテール営業からEY新日本有限責任監査法人での金融機関監査とIPO支援経験を積む。独立し税理士事務所を開業後、YKプランニング入社。現在は経営管理本部で予算管理とバックオフィス業務を統括。幅広い財務会計と金融の知識と経験を活かし、組織の成功に貢献するべく管理体制を強化中。
趣味はゴルフ・YouTubeで興味がない分野の動画をあえて見ること。